バイデン政権発足、米国はどう再建するのか

トランプ政権による分断によって荒れ果てた米国を再建する。これがバイデン新大統領に課せられた使命になります。社会の分断を修復し融和を図る課題は難しく、責任重大なものになるでしょう。

トランプ派とどう向き合うか

バイデン氏は就任演説で「国民を団結させ、国を団結させることに全霊を注ぐ」と表明すると同時に、コロナ禍をはじめとした危機乗り切りのため国民に結束を呼び掛けた。今の米国に求められるのはトランプ政権下で分断が加速してしまった「傷んだ共同体の修復」にあると言えます。
そのためバイデン氏はトランプ流の対立の政治から対話の政治に転換し、傷ついた社会に癒やしをもたらしたい意向も示しています。

しかし「選挙は盗まれた」と、根拠のない主張を繰り返すトランプ前大統領を信じ込む支持層にどう向き合うのか。その原因は後からみるみるうちに票を抜かれたということに強い違和感があったことにあります。この状況は期日前投票の票の集計が当日投票分の後から開票されることと、バイデン陣営はコロナウィルス対策の一環で期日前投票を推奨していたため、期日前投票にバイデン票が多く入ったこということがあります。しかしトランプ陣営は「多重投票」や「替え玉投票」などの不正投票があるのではないかという期日前投票という制度そのものに対する不信感を持っていることが窺えました。

トランプ支持層の中核はグローバル化に置き去りにされた白人労働者層です。職を失ったり、低賃金にあえぐ彼らの不満や怒りも受け止める必要があります。その点はバイデン氏は「すべての国民の大統領になる。私を支持しなかった人々のためにも懸命に闘う」と語っており、その決意は大事にしてほしい。
バイデン氏が直面する課題については、トランプ政権で不十分だったコロナ対策であることは言うまでもないが、コロナ禍によってあらためて浮き彫りになった不平等と格差という社会矛盾をどう解決していくかということが問われてきます。

◆コロナ禍ではっきりと浮き彫りになった不公正

特に注目すべきことは貧困が理由で医療保険に加入していない人が多いこと。この医療保険、日本でいう健康保険ではありません。いわゆる任意で加入する保険会社の医療保険です。保険料は決して安いものではなく、低所得層は加入する余裕はありません。米国では日本のような健保制度がないので、全額自己負担です。
実のところヒラリー・クリントンやバラク・オバマあたりでは日本の健保制度を参考にした制度を模索していたようですが、保険会社の利権の問題で抵抗があってか実現できませんでした。
民間の保険に入る余力のある人は保険で補填できますが、保険に加入する余裕のない低所得層は保険すらうけられません。そのため経済的な理由で医療を受ける機会を得られなくなってしまいます。
こうして横たわる医療格差がコロナウィルスの克服に向けて大きな障壁になるのではないかという懸念があります。 

就任式後に早速、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」復帰に動いたことも併せて、こうした国際協調路線への方針転換を歓迎します。
世界は米国だけで成り立っているわけではありませんし、米国だけが自己中心的にやられると世界全体の人の生命や人権のバランスが大きく崩されてしまいます。

ただし、バイデン氏の外交の前途は非常に厳しいものです。米国第一主義のトランプ外交によって自己中心的な国家として米国の信用は瞬く間に失墜していきました。はたして米国は持続的なパートナーとして信用できるのか、という疑念が各国には残っています。

一時はコロナウィルスの問題で中国にスケープゴートを被せる形で米中間で戦争になるのではないかという不安すら抱きました。信頼は外交力の源泉でもある。それを取り戻さないと国際協調路線も機能しない。そのために必要なのは他者の意見を聞くという姿勢が求められてきます。我こそ正義とばかりに独善的になっていては信頼は得られないでしょう。

トランプ氏は独善的になっていたために国際社会において信頼をつくることができなかった。もっともその前の選挙では他者の意見を聞かないという強硬的な態度に「強さ」を感じて支持を広めたという部分があったことは否めません。

◆外交は態度を改めることから

バイデン氏が誇ったように「民主主義は勝った」と語っていましたが、危うい面もありました。トランプ支持者による連邦議会襲撃事件は、力でものを言わせれば何とでもなるという意識があることの現れで、米民主主義体制の劣化を世界に印象付けることになりました。
バイデン氏は「米国は単に力を示すのではなく、模範になることによる力によって世界を導く」と語っていました。それは自由、民主主義、人権といった価値観に裏打ちされた原点に立った米国らしさであると言えます。
そうであるならば、米国は民主主義の立て直しを図らないと、国際社会をリードすることも、信頼回復もおぼつかなくなってしまうでしょう。

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